文明フォーラム@北多摩 設立趣意

このたび、私たち有志は、地域の市民が集って社会や文明のあり方、科学・技術の問題などを気軽に議論できる場をつくりたいと考え、「文明フォーラム@北多摩」を設立し、これへの参加を広く呼びかけることにしました。その趣旨は、以下の通りです。


2011年3月11日。この日発生した東日本大震災は、科学・技術の力によって自然の脅威に打ち克つことができるという私たち人間の慢心を、完膚なきまでに打ち砕きました。また、同日発生した福島第一原発事故は、科学・技術の力によって自然の力を制御し経済活動に応用できると考え、経済成長路線をひた走ってきた私たちの傲慢な態度にたいし、強い反省を促すものとなりました。

自然科学は本来、自然環境で生じている事象に秘められた普遍的法則の発見が、一義的な使命です。しかし、ひとたび発見された自然科学の法則が技術として応用されれば、そこには価値の中立などあり得ません。なぜなら、科学的知見を応用して生みだされた技術が、人間の「いのち」にどのような影響を与えるのか、自然界にどのような作用をもたらすのか、軍事転用など他者へ危害を与えるような目的で使用されないかといった倫理的判断を要する問題が、複数台頭してくるからです。

ですが、第二次世界大戦後、高度経済成長を至上の価値としてひた走ってきた我が国では、エネルギー需要の無尽蔵な拡大までもが「善」とされたために、原子力発電が優良なエネルギー生産技術として受容され、危険性を訴える声がほとんど顧慮されないまま、国策として推進されてきました。

高度成長の結果、あらゆる娯楽が享受でき、わずらわしい家事労働からも解放され、IT技術の発展によってコミュニケーションの速度も上がり、生活の質が向上して「豊かさ」を享受できるようになったのは事実です。しかし今回の原発事故は、物質的な豊かさを求めるあまり、広範な議論と倫理的判断を怠って導入した原子力発電技術が、人間そのものの〈いのち〉に、そして人間を育む土台として重要な、自然環境のなかのすべての〈いのち〉にとって、たいへん危険な存在であるという事実を、白日のもとに晒しました。

3・11原発事故は、自然環境の維持可能性を低減させてまで既存の「大量生産-大量消費」型文明を継続するのか、それとも、自然環境の保全に配慮する形での循環型の文明を創造してゆくのかという選択を、私たちに迫っているといっても過言ではありません。

ところが、この国の権力は、あれだけの事故を経験してもなお、そういった点での真摯な問いを怠ったまま、原子力を基盤としたエネルギー生産推進路線を復活させようとしています。それどころか、原発マネーを媒介とした中央と地方との差別的構造によって成り立ってきた原発推進政策のもとで、いのちを育み継承してきた地方の生活者による立地反対の声を抹殺し、危険性を訴える科学者や市民の声を抑えつけてきた自らの行為を顧みず、情報の秘匿性をよりいっそう高める仕方で批判を封じる方向に政策を転換しようとしています。

こうした動きの背後には、新自由主義的世界経済体制下で有利な立場にあり続けようとするあまり、情報公開という民主主義社会の根幹を覆し、市民やメディアの批判的な声を封殺することで、核武装も視野に入れた米軍との一体的な軍事行動の可能な国にし、自らの勢力の維持・拡大を図りたいという権力者たちの欲望がみてとれます。

こうみてくると、私たちは今、文明のあり方とともに、この国の形と進路を選択する渦中に置かれているといえないでしょうか。それは、第一に、他者への暴力的な恫喝や環境破壊を行ってまで、これまでの豊かさの享受を維持しようとする国のあり方か、第二に、世界中の人びとの平和的生存権を標榜する日本国憲法の理念に立脚した、自然環境の維持可能性を追求する国のあり方か、いずれかの選択となるでしょう。

こうした現状認識から、私たちは、よりよい社会のあり方を模索し選択してゆくための、多様な意見を交わし合う「場」つくりが急務なのではないかと思うに至りました。高度成長という国策遂行の時代以来、地域の声や生活者の声が軽視され続けているからこそ、未曾有の原発公害を経てもなお、国の基本方針が今なお変わらないとするなら、民主主義の基盤であるはずの、地域的な語らいの場をつくってゆくことこそが、いま必要とされているのではないかと思うからです。また、そうした場が全国に広まってこそ、この国の今後のよりよいあり方を見据えた広範な議論が、人びとのあいだに拡がってゆくと期待されるからです。


以上の趣旨に基づいて、私たちは今回、地域のつながりを軸とする市民有志で「文明フォーラム@北多摩」を設立して自由闊達に議論できる場をつくろうと決意しました。

ここに、上記の趣意にご賛同頂ける地域のみなさまに、広くご参集くださるようお願いする次第です。

(2014年12月21日 設立総会で採択)